“遠まわしなお願い”  『初々しい二人へ10のお題』より

          〜年の差ルイヒル・別のお話篇
             *お題シリーズですが、お兄さんたちは大学生Ver.です。
              ややこしいですが、悪しからず
 


イベントやスポーツには、
それぞれに適したシーズンというものがありまして。
例外的に、真冬の寒中水泳とか、
真夏のグラススキージャンプ大会なんてのもありますが、
おおむねは苛酷な条件を重ねぬような、
快適な気候の中で催されると言ってよく。
スポーツの秋と言われるものの、
雪や氷が要りような種目でもないのに、
冬場こそ正念場という競技も少なくはない。

 「日本じゃあマラソンやアメフトが
  秋からこっちの涼しい季節に盛んなのは、
  炎天下にやるもんじゃねぇからだろうな。」

ただ暑いだけじゃねぇ、湿気もあるから、
日陰を選んでも あっと言う間に熱中症になっちまう、と。
この年齢でそういうことへまで視野が広いなんてのは今更な、
金髪金茶眸のとんがり坊やがさらりと述べたのへ。

 「…うん、そうだよね。」

お向かいからのお返事が少々鈍かったのは、
立場が微妙に違ったからで。
おんやぁ?とお顔を上げた、
蛭魔さんチの妖一くんと向かい合い、
図画工作の課題、
お友達のお顔を描きましょうの相棒を務めておいでの、
ふわふかな頬したキュートな坊や。
天然で無邪気で、天使のような笑顔が魅力の、
屈託がないことで知られた男の子…の筈が。

 「………。」

何とも悄然とした様子で、
力なく絵筆を動かしておいでなものだから、

 “…ああ、そっか。”

妖一くんと同じく、
冬場のスポーツと言えばの話題に出て来た、
“アメフト”に間接的に縁のある、
小早川さんチの瀬那くんではあるが。
こっちの坊やにすれば、
この時期というのは随分と微妙な心理になるらしく。

 “強いチームに身内がいんのも大変だよな。”

高校時代は“クリスマスボウル”という
文字通りクリスマス前後に催される決勝戦、
頂上決戦を目指すアメフトボウラーたちだが。
大学に上がって目指すのは、
一番上のリーグでのクラッシュボウルに始まり、
東西のトップがガチンコする“甲子園ボウル”と、
社会人と競う“ライスボウル”とへランクアップする。
しかもしかも、これの日程が何とお正月の向こうというほどに長丁場。
よって、強いチームに在籍していると、
冬場が押し詰まるほど、
練習やミーティングに拘束される身になってしまい、

 「………。」
 「セナちび。」

ふしゅーんとしょげている小さな坊や。
何しろ、この彼が大好きな、進清十郎というお兄さんは、
今や日本を代表する最強プレイヤーと言っても
過言じゃあないレベルの選手なものだから。
入ったチームでは
一も二もなくの当然ごととしてレギュラーに抜擢されるわ、
試合という試合のどれへも、
正選手として出ずっぱりという立場になるわで。
しかもそんなチームが、期待通りに勝ち進んでたりするもんだから。

 『…進さんが凄い選手なのが、
  時々、嬉しいじゃなかったりするの。』

それでなくとも、
町角のライトアップだの遊園地のパレードだのと、
あちこちでそりゃあ華やかなイベントも目白押しという頃合い。
まだやっと2桁な年齢になったばかりという坊やにすれば、
大好きな人とこそ、遊びたいだろ逢いたいだろうに。
そんな気持ち、
相手には一言も言わずの応援だけを続けているなんて。
そりゃあそりゃあ頑張って我慢している方だと思うのだけれど。

 “たまにゃあ本音を言ってやりゃあいいのによ。”

それでなくたって、相手は筋金入りの朴念仁だ。
アメフトやスポーツやるには最適かもだが、
人とのつながりを思や、
これほど残念な人性もなかろうほどの野暮天ぶりで。
そこまでの鋼の神経している相手だもの、
無茶言って困らせたっていいじゃんかと思う妖一くんとしては、

 「……なあセナ、今日は…」

こっちの坊やが慕うお兄さんはといえば、
三部だったチームがめでたくも入れ替え戦を勝ち上がったばっか。
調子に乗っての祝勝会が2日も続いているらしいので、
今日はその現場を
マシンガン抱えてって急襲してやろうと構えておいでで。
それへと付き合わねぇかと訊きかかったのだけれども。

  ―― ……………………
(うい〜んきぃーん・ばるんばるばる)

遠く遠く、どこまでも遠くから、
かすかなそれとして聞こえて来たとある音があり。
ちょみっと尖ったお耳を震わせ、
顔を上げると窓のほうへと駆け寄った小悪魔様。
爆音の中へ微妙に金属音を馴染ませた、
独特なイグゾーストノイズは他でもない、
誰かさんが愛用の、ゼファーのエンジン音に違いなく。

 「ヒル魔くん?」

絵筆片手に窓ガラスへへばり付いた小さな背中は、
教壇から降りて他の生徒たちの作業を見て回っていた、
姉崎先生の目にも留まったものの。
どうかしたの?と訊きかかった声より勝る爆音が、
目の前に広がる校庭へ飛び込んで来、

 「…ルイ?」

あれでも一応は都議の息子で、
暴走行為を張ってこそいるが、
それなりの“わきまえ”とやらは持っており。
小学校の校庭へ、バイクごと飛び込むなんて無茶は
控えていたはずなのに。
大型マシンをねじ伏せての急停止をしたがため、
まとっていた風にあおられて、
裾の長いグラウンドコートの白が、ばさぁっとひるがえった様子は、

 「うあ、仮面ライダーみたいだ。」
 「何だお前、まだ観てんのかよ。よーちだな。」
 「え〜? ウチではおねいちゃんが観てるよ?」
 「そーだよ、映画にもディー・ブイ・デーにもなってるんだよ。」

すぐ間近のお教室にいた小学生たちを沸かせたものの、
どの子も単なる見物の衆だったその中へ、
肝心な坊やが混ざってないのを一瞥で見切ると、

 「ヨーイチ、セナ坊連れて来い。」
 「…………あ"?」

顔見知りな坊やへ敢然とした態度で一言を放ってから。
またがったままだったバイクから、颯爽と蹴上げた足の長さに、
ついつい見ほれてしまっていた姉崎先生へ、
降りたそのままという真っ直ぐに
…校庭へ向いた掃き出し窓越しつかつかと歩み寄ると、

 「すいませんが先生、小早川くんと蛭魔妖一、早退させますので。」
 「え? あ、えっと?」

コートのポケットから取り出したのは、無地の茶封筒。
保護者からの届けですということか、
お手紙が入ったそれであるらしく。
きっちりとした封はされていなかった口から、
その中身を引っ張り出した姉崎せんせえ。
広げた便箋へと視線を走らせ、
あらまあと目を見張ってから、

 「確かに大変だ。
  セナくん、お迎えですよ。蛭魔くんとお帰りなさい。」
 「うや?」

小首を傾げすぎてのこと、
そのまま横倒しになりかかった坊やを、
すぐ傍らではっしと受け止めて、

 「ほれ、カバンだ。」
 「え?」

いつの間にとびっくりしたほど手早くも、
セナくんの分まで机の中の荷物をきっちりと浚っての、
片付け終えてた小悪魔様。
呆然としていたお友達へランドセルをしょわせると、
その手を取ってのほれほれと促してお外へ出てゆき。

 “…でも、どうやって3人乗りになるのかしら。”

というか、それって道交法違反では?と、
今更ながら気がついたせんせえの杞憂を跳ね飛ばし。
まずは ほれと、
トップスだけリーゼントお兄さんがセナくんを懐ろへ抱きかかえ。
そのまま跨がり直したバイクの後部には、
こちらさんも ずんと手慣れた動作にての軽やかに、
金髪の坊やがヒラリと跨がっての頼もしい背中へしがみつく。
妖一くんはともかく、セナくんの方は、
それほど慣れてはない身であったれど、

 「そんな長い間じゃないから、ちぃと我慢しなな?」
 「うん。」

落ち着いたお声で言われると、なんだか安心しちゃったのと、

  それから、あのね?

バウンて走りだしたオートバイの物凄い音にかぶさって、

 「何で進の奴が、賊学に来てやがんだよっ。」

 ……………え?/////////

姉崎せんせえの手元を覗いたらしいヒル魔くんのそんなお声がね、
するんって聞こえたもんだから。
なんで?の部分はヒル魔くん同様によく判らなかったものの、

 “進さん、葉柱さんのトコに来てるんだvv”

練習にかな、葉柱さんとこは もうお休みってゆってたしな。
決勝までなら嬉しいなと、
なんか、それだけでもうもう嬉しくなっちゃったから、
細かいところはどうでもよくって。
そして、そんなややこしい3人を見送った姉崎せんせいは先生で、

 “関東大学生代表が正念場で勝つために必要です、か。”

こんな診断ってありなのかしらねと、
見覚えのある名前の歯医者さんの医院印が赤々と押された微妙な診断書へ、
彼らの相関とか事情が判っていればこそ、応対出来た自分も含め、
調子のいいことと“くすすvv”と吹き出してしまっておいで。


  遠回しな我儘くらい、
  言ってやんなと思った、小悪魔さんの願いが届いたか。
  何だかハッピーな12月となりそな予感でございます。





  〜Fine〜 10.12.12.


  *帯広でしたか、
   スピードスケートの世界大会(だったかな?)の
   模様が中継されていて、
   ああもうそんな時期なんだと、
   早いなぁと感じてしまったんですよね。
   フィギュアのワールドツアーは
   もっと早くから扱われていましたのにね。
   まあ、アリーナの中での競技ですし、
   真夏にもアイスミュージカルとかありますから、
   それもあっての、感覚のズレがあったのでしょうが。

  *セナくんが我慢するというネタは結構使っておりますが、
   進さんの側だって、練習が終わったらとか、寝る前とかに、
   ふっと、どうしてるんだろかと
   思い出すことはあると思うのですよ。
   またぞろ、
   自分の無頓着のせいで泣かせてるんじゃなかろうかなんて、
   そういう方向で案じるようになれたら進歩じゃないですかね。
   いいお父さんになれますよ?(……あれ?)


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